5月17日、大阪のザ・フェニックスホールに於いて開催されましたフェニックス・エヴォリューション・シリーズ111 「ハーモニカマニア」終了しました。
〜クロマティック・ハーモニカの未来と可能性を拓く〜と題し、ハーモニカへの興味・関心の裾野を広げること、危機的状況におかれたハーモニカの歴史を動かす原動力へと繋げることを目的に、「クロマティック・ハーモニカの名作」「レパートリーの開拓・発見と新しい演奏技術の試み」という2つの軸からプログラムを構成しました。
前半の「クロマティック・ハーモニカの名作」では、様々な様式の作品を味わっていただきたいとの思いから、
・組曲形式の作品である「5つの小品」(ゴードン・ジェイコブ)
・重音・多声部奏法が駆使されている無伴奏独奏作品の「セレナーデ」(トミー・ライリー)
・僕自身が一番最初に知ったハーモニカ作品である「ハーモニカ協奏曲」(マルコム・アーノルド)
たまたまつけたラジオで偶然耳にし、ハーモニカのための作品があること、プロのハーモニカ奏者がいることを知るきっかけになった思い入れの強い曲でもあります。
・ハーモニカを代表する作品でもある「スペイン幻想曲トレド」(ジェームス・ムーディー)
を選曲しました。
後半の「レパートリーの開拓・発見と新しい演奏技術の試み」では、
・同属楽器でもあるバンドネオンでも演奏される「オブリビオン」、「リベルタンゴ」(アストル・ピアソラ)
ハーモニカとピアソラ作品はとても相性がよく、比較的取り上げられる機会も多いです。
今後、ピアソラ作品はハーモニカにとって、益々重要なレパートリーの一つとなっていくことと思います。
・自作曲の「ハーモニカとピアノのためのプレリュード」
パガニーニやリストが生み出してきた作品のように、既存のテクニックを一歩超えたところ、楽器が持っていると思われているポテンシャルを一歩超えたところの作品を生み出し続けることで、進化し、楽器の歴史が推し進められていくと考えています。
この作品でも、ハーモニカだからこそ出せるフレーズは勿論、テクニック的にも際どいラインのフレーズを入れ込んでいます。
プレリュードとは、前奏曲と訳されるのですが、今後もハーモニカの作品を書き続ける決意の意味を込めて名付けました。
・ピアノソロ「アララト平地の夕べ」(アレクサンドル・アルチュニアン)
アルチュニアンの作品・世界観をより味わっていただきたく挿入しました。
・最後の「トランペット協奏曲」(アレクサンドル・アルチュニアン)
曲中にタンギングで奏される同音連打が随所に出てきます。
タンブロック奏法ではタンギングが使えないため、同音連打が非常に困難で、一定以上のテンポに於いては、これまで不可能とされてきました。
(僕は舌を当てないパッカーではなく、タンブロック奏法を用いています。)
しかし、クロマティック・ハーモニカ・ラボ独自の研究により、これを可能としました。
また、以前のブログにも書いておりますが、「Con Sordino」の箇所で音色を変えるツールも開発したため、今回の公演で初披露となりました。
このツールに関しては、皆様方からも多くのご意見・ご感想を頂戴しましたので、それを踏まえて更に改良を重ねていきたいと思っています。
以前から、ハーモニカの歴史が停滞してしまっているように感じていたのですが、数年前からは停滞ではなく、衰退していっているのでは…という危機感を覚えるようになりました。
コンサートや学校公演でハーモニカの説明をした際に「吸っても音が出る」という話をすると、「知らなかった」「初めて知った」という声がとても多く聞かれるようになったからです。
僕にとっては当たり前のように思ってきたこと、誰もが知っていると思ってきたことが実はそうではなく、ハーモニカに対する認識も薄れつつあると感じ、とても大きな衝撃を受けました。
考えてみれば、それもそのはずで、学校の音楽の授業ではハーモニカは取り扱われなくなり、今は鍵盤ハーモニカとなってしまっている。
プロの演奏者も少なく、コンサートも非常に少ない。
それがクラシックのジャンルとなると、更に演奏者の数は少なくなり、コンサートに於いてもハーモニカのための作品が演奏されることも非常に稀である。
ハーモニカための作品の楽譜を入手するのも非常に困難で、楽器店では買えず、海外の楽譜サイトをいくつも探し回って、ようやく数曲見つかる程度。
その他にも、ここには書ききれない程の問題や困難が山積しています。
つい先日も、ずっと探し続けていたハーモニカの楽譜をようやく見つけ、購入したものの、実はハーモニカ用の楽譜ではなく、ヴァイオリン用の楽譜となっていました。
こうなると、音源から所謂耳コピで楽譜を作っていく他なくなってきます。
音源があればまだましな方で、僕の手元にある資料には、文字通り見たことも聴いたこともないハーモニカのための作品がずらりと並んでいます。
当サイトの作品一覧にもハーモニカのための作品を記載していますが、基本的には楽譜や音源が確認できた作品のみを掲載しており、手元にある資料によると、更にもっと多くの作品があるようです。
偉大な作曲家の方々が、情熱をかけてハーモニカのために書いてくださったにも関わらず、埋もれていってしまった作品もかなりあるのではないかと推察され、非常に悲しく、残念に思っています。
楽器の歴史を推し進めるには、「楽器職人(メーカー)」、かつてのパガニーニやリストのような楽器のことを知り尽くした「作曲家」、常に楽器のポテンシャルを模索し、追及し続ける「演奏家」、そして、その演奏を聴いてくださる「聴衆の方々」の4者の存在・相互作用が不可欠だと思っています。
クロマティック・ハーモニカ・ラボでも、ハーモニカのおかれた現状を打破したい、歴史を押し進めるという、その一端を担いたいという想いから、編曲を含むレパートリーの開発、新たな楽曲の創作や様々な楽器との共演、テクニック・メソッドの開発などに意欲的に取り組んできました。
そしてこの度、大阪のザ・フェニックスホールにおいてリサイタルを開催させていただけたこと、とても有り難く、嬉しく思っております。
それと同時に、クロマティック・ハーモニカ・ラボとしても、また重要な一歩が踏み出せたのではないかと思っています。
コンサートにお越しいただきました皆さま、ザ・フェニックスホール・関係者の皆さま、本当にありがとうございました!
これからもクロマティック・ハーモニカ・ラボは意欲的に邁進していく所存ですので、今後も温かく見守っていただけましたら幸いです。